免疫チェックポイント阻害薬の実態を明らかにした全国レジストリ研究MD-ICIの狙い 免疫チェックポイント阻害薬の実態を明らかにした全国レジストリ研究MD-ICIの狙い

発症頻度は低いが、発症すれば致命的な免疫チェックポイント阻害薬による心筋症。日本における実態とより安全に治療を進めるための使用法の解明を目指して全国35施設が参加してレジストリ研究(MD-ICI)が進んでいる。研究開発代表者の田村雄一先生に話を聞きました。

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による心筋症とはどのようなものですか。

田村雄一先生

田村ICIにより自己免疫疾患や炎症性疾患様の副作用が出現することがあり、免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれています。心臓におけるirAEには心筋炎、非炎症性左室機能不全、心外膜炎、伝導障害など多岐にわたります。心筋炎の頻度は0.5~1%程度と高くないのですが、発症すると致死率が高く一般的な心不全治療のみでは改善が乏しいという問題があります。ICIの適応拡大が進んでいますから頻度が低くても遭遇する機会は増えているということができます。我々の施設でも症例を経験しています。

先生が中心になって全国の症例レジストリを進める研究MD-ICIを進められていますね。レジストリの目的は何ですか。

田村発症頻度が低いことから単一の施設で症例を集積することは困難です。実際の発症頻度、リスク因子、予後などは完全に解明されたとは言えません。そのために多くの施設が参加して、症例を登録し、実態を解明する必要があります。世界的なICIの心筋症の症例集積を行っていますが、日本におけるエビデンスは非常に乏しいのが現実です。
本プロジェクトはAMEDからの助成を受け、国内の症例を集積して前向きスクリーニングアルゴリズムを策定し、ガイドラインに反映することを目的にしています。また日本国内では心筋生検をよく行っているので、病理像や炎症プロファイルを明らかにできると思います。
私は難病である肺高血圧患者のレジストリの構築を経験しており、その成果を活用して治験のプロトコールにも反映するなどの先験的な試みを行っております。その知見を活かしてICIの心筋症においても、レジストリの利活用が進むことを目指します。

現在、どのくらいの症例が集まっていますか。

田村60例ほどです。本研究はまず令和4年度まで継続して収集する計画です。実際に調べると、重症度評価(CTCAE v5.0)でGrade 1~2の軽症例も多数いることが分かりました。

心血管有害事象の重症度評価の心筋炎のGrade 2は「中等度の活動や労作で症状がある」程度ですが、Grade 4は「生命を脅かす」ですね。

田村Grade 1~2からGrade 3以上に移行する症例を見極める方法を確立することがMD-ICI研究の目標であることも見えてきました。

Grade 4に移行する可能性を評価するバイオマーカーが明らかになれば、安全にICIの使用を継続できる症例を見極めることができますね。

田村がん治療にICIを使うことの意義は非常に重要です。「軽度の心筋障害が出ているからICIを使えない」という事例をなくしていくことが、患者さんのトータルの予後を考える上では大切です。リスク因子を特定する目的はあくまでICIを安全に確実に使用するためにはどのような注意や処置が必要かを明らかにすることにあります。