国際医療福祉大、免疫チェックポイント阻害薬使用時のトロポニンI上昇の臨床的意義を報告
国際医療福祉大、免疫チェックポイント阻害薬使用時のトロポニンI上昇の臨床的意義を報告

国際医療福祉大学の研究グループが、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用した患者の心筋炎の発症率を前向きに評価するとともに、そのバイオマーカーとして重視されるトロポニン上昇率とその転帰をJournal of Cardiology誌オンライン版に報告した(Furukawa A, et al.: Journal of Cardiology. August 9, 2022 [Online ahead of print])。

研究グループは「トロポニン陽性率は従来考えられていたよりも高かったが、陽性患者においても無症候性もしくは軽症であれば治療を継続できる可能性が高いことが示された。今後ルーチンでのトロポニンスクリーニングが広がる中で、陽性所見の意義を解釈するうえで重要な知見」と述べている。免疫チェックポイント阻害薬をがん患者において、前向きにスクリーニングを行った世界初の疫学研究となる。

ICIに伴う心筋炎は、発症率は低いが一度発症すると致死率が高いと考えられている。今年(2022年)8月に公表された欧州心臓病学会(ESC)の腫瘍循環器ガイドラインでもICI投与患者におけるトロポニンの経時的な測定が推奨されている。ブリストルマイヤーズスクイブ社によるニボルマブ市販後調査では心筋炎発症率はニボルマブ単独で0.06%、イピリムマブの併用時には0.27%と記載されている。

研究グループは、ICIを投与された126例の患者について、投与前、投与後1週、2週、3週、2ヵ月後およびその後は3ヵ月毎に心電図、心エコー検査、血液検査(トロポニンI、CK、BNP、Dダイマー)を実施した。

その結果、126例のうち18例(14.3%)にトロポニンI上昇が認められた。そのうちの13例(全体の10.3%)にはトロポニンI上昇以外に臨床的に心筋炎を疑う徴候を示した。つまり、これまで報告されていたよりも高頻度で心筋炎が発症している可能性が示された。13例のうち症状を呈したのは8例(全体の6.3%)であり、さらにICIによる治療の中断を必要とする重症患者は4例(全体の3.2%)にとどまった。また心筋炎を示唆する所見は重症度にかかわらず、中央値44日と早期に発現していることが分かった。

ICI治療に伴う心筋炎の報告は、重症例もしくは死亡例によるものであった。今回研究グループが報告した心筋炎の発症率は治療コホートを対象にした前向き研究の結果であり、先行研究よりもより実態に近いと考えられる。

心筋炎の発症率は従来よりも高かったが、一方でトロポニンIが上昇した18例のうち、治療中止を余儀なくされたのは4例(22.2%)にとどまった。つまり、トロポニンIが上昇してもその多くが無症候性、軽症であり、慎重な観察のもとでICI治療の継続が可能である。研究グループは「今後トロポニンIが高値であっても無症候性の症例の取り扱いに腫瘍循環器医が苦慮するケースが増加すると予想されるため、本研究の成果はその問題に対して臨床現場にヒントを与えることが期待される」と述べている。